アドボカシー(公開日:2018.02.06)
2018年議連合同による栄養シンポジウム
「適切な栄養をすべてのお母さん、子どもたちに!」報告
シンポジウムは、第一部「アフリカと栄養」、第二部「難民と栄養」、第三部「オリパラにむけて〜地球市民として栄養・食・いのちを語ろう」の三部から成り、国際母子栄養改善議員連盟の逢沢一郎副会長、また高木美智代厚生労働副大臣による開会の挨拶後、国内外からのゲスト・スピーカーが最新状況の報告と問題提起を行いました。
第一部の「アフリカと栄養」は鈴木馨祐FAO議員連盟事務局長の司会で進められ、国際栄養科学連合会長/FAO栄養ディレクター アナ・ラーティ氏、またビル&メリンダ・ゲイツ財団の栄養部門副ディレクター ニール・ワトキンズ氏、及びネマット・ハジーボイ氏による2つの基調講演が行われました。
ラーティ氏の講演では、まず、アフリカでの栄養に関する課題は、紛争などの社会問題、急激な人口増加や気候変動など地球規模の課題、そして食料を取り囲む人為的な要因が複雑に絡んでいるとの指摘がありました。なかでも、貧しい人々の食生活は栄養バランスを欠き、感染症を引き起こすリスクが高くなるため、世界的な開発目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」や、国連による「Action for Nutrition」などの機会を最大に生かし、アフリカの栄養改善に向けた動きを進めていきましょう、との力強い発信がありました。
ワトキンズ氏とハジーボイ氏からは、ゲイツ財団が「2030年までに5歳以下の子どもの死亡率を半減させる」ことを目指しており、その目標達成のため、(1)栄養失調に起因する死亡をなくし、児童の成長・発達のための効果的なプログラムを拡大する、(2)投資を効果的にするための新たなシステムの開発・テストに向けて活動を行う必要がある、との説明がありました。さらに、このようなフレームワークに沿った活動のためには、年間約23億ドルの追加投資が必要であるため、日本政府をはじめ、関連者との連携を強め資金強化を行っていきたいと述べられました。
第二部の「難民と栄養」は、国際母子栄養改善議員連盟の木村弥生議員の司会にて進められました。ここでは、1948年以来70年間続いており、世界最大の約530万人となっているパレスチナ難民が抱える栄養の問題について、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)事務局長ピエール・クレヘンビュール氏、また同保健局長清田明宏氏より、最新状況の報告がありました。
医師でもある清田氏によると、パレスチナ難民の死因の7、8割は糖尿病、がん、高血圧など生活習慣病によるもので、その要因は、貧しさのためにパンなど安く手に入る食事に偏ること、歩かないこと、さらに、タバコ服用などがあるとのことです。清田氏は、このような身体的な疾患へのケアに加え、不安定な状況で過ごす人々には精神的なケアが必要であり、根本的に「平和の実現なしに栄養の課題が改善されることはない」と考え、引き続き平和、そして栄養改善への取り組みを現地に根差して行っていく、との報告がありました。
第三部の「オリパラにむけて〜地球市民として栄養・食・いのちを語ろう」は、木原誠二SDGs外交議連事務局長、羽田雄一郎UNICEF議連事務局長の両名が司会を務めました。まず2020年に向けた取り組みについて、SUN市民社会連合副議長/セーブ・ザ・チルドレンUK栄養部長のキャサリン・リチャード氏より、報告がありました。
栄養のための取り組みを拡充させるための市民社会ネットワークSUN(Scaling UpNutrition)の副議長であるリチャード氏は、市民社会の観点から、すべての人の栄養不良をなくすためには、特に(1)資金調達、(2)「誰一人取り残さない」への着目、(3)思春期への子どもへの支援、(4)生後1000日間への介入といった観点に注力する必要がある、と述べました。そして、市民社会と直接的な連携を図りながら、2020年の栄養サミットに向け、野心的な目標を設定し、確実な成果を出すとともに、活動内容への説明責任を果たしていく必要があると強調されました。
市民社会の立場から栄養改善を訴えたリチャード氏
この後、内閣官房、外務省、JICA、厚生労働省、財務省、農林水産省の各省庁、また民間企業の株式会社タニタ、味の素株式会社から栄養改善への実践的な取り組みが紹介されたのち、国際母子栄養改善議員連盟の山東昭子会長の閉会の挨拶でシンポジウムは締めくくられました。
今後、日本は、2020年の「栄養サミット」の開催国として、政府が推し進めてきた「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成」という観点からも栄養改善への取り組みをさらに強化する必要があります。これらの活動はまた、SDGs、及びWHOの「国際栄養目標2025(Global Nutrition Target 2025)」の達成にも寄与するものとなります。セーブ・ザ・チルドレンは、引き続き、日本政府、NGO・市民社会・産業界・アカデミアなど、各栄養パートナーと協力しながら、栄養不良の課題解決に向けた働きかけを、政策と資金動員の両面から力強く行っていきます。
(アドボカシー・オフィサー:川口真実)