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アドボカシー
(公開日:2020.09.07)

シリアの子どもたちの教育と新型コロナウイルス感染症 −Stop the War on Children (SWOC)ユースチーム vol.3

 
※下記はStop the War on Childrenキャンペーンを国内で推進するユースチームによる発信です。前回の発信はこちら(vol.1, vol.2


2020年2月、シリア北西部イドリブ県にある学校10校が攻撃され、
少なくとも少女1人が死亡し、市民9人が負傷

シリア国内では2011年から続く紛争が10年目に入り、人々は政治的、経済的に大変厳しい状況に陥っています。その影響により、約210万人もの子どもたちが教育の機会を失ってしまい、3人に1人が学校に通えていません(注1)。また、約560万人のシリアの人々が紛争を逃れ、トルコやヨルダン、レバノンなどで難民として生活しています(注2)。避難先の国々においても、さまざまな要因により継続して学ぶことが難しくなっています(注3)。

そうした紛争や避難による困難に加え、新型コロナウイルス感染症が、シリアの子どもたちの教育に大きな影響を与えています。感染症の拡大に伴い、シリア国内や難民受け入れ国のレバノンなどの学校は閉鎖せざるを得ない状況になっています(注4)。新型コロナウイルス感染症の影響により、シリア北西部のイドリブ県でも学校の休校措置が取られています。下の写真は、バースィル先生の授業の様子です。教室に生徒たちは誰もいません。先生たちは生徒のいない教室で授業動画を撮り、オンライン授業を行っています。



下の写真は、イドリブ県に暮らすカーリムさん(12歳)と弟のアッセムさん(6歳)です。カーリムさんはセーブ・ザ・チルドレンの協力団体が支援する学校に通っています。新型コロナウイルス感染症の影響で、現在はオンライン授業が行われており、カーリムさんは自宅で学習を続けています。



今回、セーブ・ザ・チルドレンの報告書や記事などを読み、シリアの子どもたちの教育と新型コロナウイルス感染症がもたらした影響について、私たちは以下のことが大きな課題だと感じました。

(1)安全な教育へのアクセス
シリアでは、2013年から2019年の間の紛争により、国内にある学校の40%が損傷を受けたり破壊されたりしています(注5)。紛争下においては学校や通学路においても常に危険が伴い、通学中に空爆の被害に遭う、誘拐されてしまうといったリスクがあることを知りました。安全に教育にアクセスできることが重要だと感じました。

(2)メンタルヘルス
紛争そのものが、身体的のみならず精神的に子どもたちにとって大きな苦痛をもたらします(注6)。また、紛争により学校へ通えない、教育を受けられないことが、子どもたちにとって精神的な苦痛となる可能性があり、学びと子どもたちの健やかな成長に欠かせない将来への希望を失ってしまうことにつながることは大きな問題だと思います(注7)。加えて、新型コロナウイルス感染症の影響でこのまま休校が長期化し、同年代の子どもたちとともに学び、遊ぶことなく一日中家に籠る日が長くなれば、子どもたちの心理的負担も大きくなるのではないかと私たちは考えています。

(3)遠隔で学ぶための環境

新型コロナウイルス感染症の拡大後、オンラインなどによる遠隔授業が取り入れられているものの、オンライン授業に必要な環境や機器が確保できないなどの様々な理由から遠隔授業を受けることが困難な子どもたちが多くいます。例えば、休校措置がとられているレバノンにて実施された、レバノン人とパレスチナ難民、シリア難民137人を対象とした調査によると、4分の3の学生がオンラインで遠隔授業を受けることに困難を感じており、なかでも女子はその割合が高く8割にのぼっています(注8)。 
また、オンライン授業へのアクセスは家計への負担も生じさせてしまうことを知りました。例えば、シリア難民も多く暮らすヨルダンでは、政府がオンライン学習プラットフォームへアクセスするための無料データを提供しているものの、実際先生がビデオを送るために使うメッセンジャーアプリには追加料金が必要になっているため、家族は必要最低限の出費さえも抑えなければならない状況となっています(注9)。私たちは、学校側が授業を提供することが可能であっても、それを受ける子どもたち側の環境が整っていないことは大きな課題だと感じました。

(4)貧困と教育を受けられないことの長期的な影響
上記レバノンでの調査によると、新型コロナウイルス感染症の影響で、家族が職を失ったため、3分の2の若者が経済的支援の必要性を訴えています。セーブ・ザ・チルドレンの報告によると、世界中で1,000万人もの子どもたちが復学できない恐れがあるとしていますが、その原因の一つが深刻化する貧困だということです(注10)。今まで以上に経済的余裕がなくなり、シリア難民・避難民の子どもたちが途中で学校をやめ、働き始める、あるいは早期に結婚させられるリスクもあります。私たちは、教育へのアクセス制限が及ぼす影響は「教育」だけでなく、こうしたリスクやさらなる教育の格差を生み出し、子どもたちに長期にわたる被害を及ぼすことは、深刻な課題だと考えます。

「子どもの権利条約」の28条は、すべての子どもに教育を受ける権利を保障しています。しかし、上記のように、シリアの子どもたちの教育を受ける権利がさまざまな形で阻害されていることを知りました。私たちは、メンタルヘルス支援を含む教育への支援はどうあるべきか、どうしたら望ましい形で支援を増やしていくことができるのか、引き続き理解を深めていきたいと思います。

執筆者:池本 彩七(大学4年生)、笠松 真優(大学2年生)、中司 泰佑(大学2年生)

(注1)OCHA, 2019 Syrian Arab Republic Humanitarian Needs Overview: https://hno-syria.org/#key-figures, 2020年9月2日閲覧

(注2)OCHA, “The Global Humanitarian Overview (GHO) 2020” (2019): https://www.unocha.org/sites/unocha/files/GHO-2020_v9.1.pdf 
(注3)Save the Children, “Save our Education”(2020): https://www.savechildren.or.jp/scjcms/dat/img/blog/3326/1598019481731.pdf。レバノン、ヨルダンなどの状況を参照。
(注4)UNCESCO, Education: From disruption to recovery: https://en.unesco.org/covid19/educationresponse/, 2020年9月2日閲覧
(注5)2020年7月9日付ブログ記事「報告書『攻撃される教育 2020(Education under Attack 2020)』を発表」:https://www.savechildren.or.jp/scjcms/sc_activity.php?d=3328
(注6)2017年3月7日付ブログ記事「【紛争6年目のシリア】毒性ストレスに晒される子どもたちのメンタルヘルスが危機的状況に―シリアの子どもたちに関する調査報告書「見えない傷」を発表」:https://www.savechildren.or.jp/scjcms/press.php?d=2430
(注7)2019年9月11日付ブログ記事「紛争下の子ども2,400万人以上がメンタルヘルスへの支援必要」:https://www.savechildren.or.jp/scjcms/press.php?d=3028
(注8)2020年6月10日付ブログ記事「レバノン 新型コロナウィルス感染症と経済危機の影響から学生生活の半分が休校に」:https://www.savechildren.or.jp/scjcms/sc_activity.php?c=38
(注9)国連UNHCR協会, 新型コロナウイルスによる学校閉鎖で打撃を受ける難民の子どもたち:https://www.japanforunhcr.org/archives/19996, 2020年9月2日閲覧
(注10)2020年7月21日付ブログ記事「新型コロナウイルス感染症の影響により、1,000万人の子どもたちが復学できない可能性も」:https://www.savechildren.or.jp/scjcms/sc_activity.php?d=3326

 

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