アドボカシー(公開日:2023.12.11)
【12月12日はユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)デー】すべての人に健康を:今こそ行動を起こすとき
12月12日は、国連が定めたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC: Universal Health Coverage)デーです。UHCとは、誰もが、どこにいても、お金に困ることなく、質の高い保健医療サービスを利用できる状態を言います。
保健医療サービスの需要が増大していく一方で、現状に目を向けると、健康格差は拡大し、世界人口の約半数の人たちが最低限の必須保健サービスを受けることができず 、予防可能な理由で命を落としており、UHC達成への道のりはいまだ遠い状況です。
セーブ・ザ・チルドレンは、子どもを含むすべての地域社会の人たちが、将来にわたって質の高い保健医療・栄養サービスを利用できるようになるために、さまざまな国や地域で活動してきました。各国の活動の中で、セーブ・ザ・チルドレンが直面してきた課題、教訓、ベストプラクティスをまとめた「UHCストーリーズ(UHC Stories)」より、ここでは、エチオピア、モザンビーク、ナイジェリア、ルワンダの事例を紹介します。
エチオピア
エチオピアでは、遊牧民コミュニティにおけるアカウンタビリティ(説明責任)強化をサポートしてきました。エチオピアのソマリ地域の人口の85%は遊牧民ですが、人口の半分に相当する人たちが半径10キロメートル内で保健医療・栄養サービスを利用することが困難となっており、約10人に一人(101/1000人)の子どもが、5歳の誕生日を迎える前に命を落としています。セーブ・ザ・チルドレンは、ソマリ地域で女性、若者、教師、宗教・コミュニティ指導者から構成される、「社会的アカウンタビリティグループ」の設置をサポートしました。グループのメンバーがスコアカードを使い、保健センターの衛生状態や診察までの待ち時間、設備などの評価とモニタリングを行ったことで、一年後には、地域の保健センターのパフォーマンスが向上しました。また、保健サービス提供者自身がスコアカードを使用し、自らのパフォーマンスを評価する仕組みも出来上がりました。このように、エンパワーされたコミュニティが、より質の高い保健サービスとともに、関係当局に対してアカウンタビリティを求める声を上げていくための環境を整えることができました。
モザンビーク
モザンビークでは、栄養サービス改善のための、医療従事者の能力強化をサポートしています。ナンプラ州では、5歳未満の子どもの46.7%が栄養不良に苦しんでいます。同国の保健省や農業省が栄養不良を改善するために努めてきましたが、患者を診察できる医療従事者が不足していたり、保健専門家が栄養に関するトレーニングを受けていないなどの課題が残っていました。そこでセーブ・ザ・チルドレンは、2019年から2023年にかけて、他の開発パートナーや地域当局と共にこうした課題に取り組むための支援を行いました。
人材マッピングでは、現在栄養サービスを提供できる専門家の人数や、知識レベルなどを把握し、必須栄養サービスに関するトレーニングを提供することで、95人の新たな専門家の養成を行いました。また、消耗症の治療や、鉄分補給などを行うために、12の地域で18,000人にも及ぶ患者個人の管理カードなど作成することで、医療従事者が医療施設での患者の受診状況や経過をモニターできるようになり、また予想される患者数などを把握できるようになりました。このように、医療従事者の能力強化のアプローチにより、持続可能な栄養サービスの提供につながります。
ナイジェリア
ナイジェリアでは、保健ガバナンスの構築と健康保険の拡大を支援しています。2016年時点で、カドゥナ州の専門家の立ち合いのもとでの分娩数、5種混合ワクチンの接種率は他の地域と比べて特に低い状態でした。また、保健医療サービスを受けるための患者の自己負担額が高く、治療に必要な薬品も十分でない状態でした。セーブ・ザ・チルドレンは、こうした背景から、カドゥナ州において、すべての市民が保健サービスを利用する際の経済的障壁を取り除くことを目標とし、保健財政にかかるステークホルダーや、国内外の専門家、市民社会などを集め、保健戦略計画の策定を支援してきました。現状分析のための技術的支援を行ったり、包摂性の確保、戦略の実行可能性の検証を行ったりしました。保健支出に関するデータを生成し、すべてのステークホルダーが戦略の形成プロセスに参加できるようにすること、またその対話を通して財政余力や保健セクターへの投資を増大させていくというナイジェリアの取り組みは、他の地域でも応用できるものであり、UHC達成に向けた大きな一歩となります。
ルワンダ
ルワンダでは、都市部の難民の子どもたちに対する支援を行っています。セーブ・ザ・チルドレンは、2016年から、キレへ県にあるマハマ難民キャンプにおいて保健・栄養サービスの提供を行ってきました。一方、難民キャンプの外では、加入資格があるにもかかわらず、健康保険に加入できていない子どもたちが、保健医療サービスを受けられていないことが明らかになりました。セーブ・ザ・チルドレンは、地方政府およびパートナー機関と協力し、保健サービスや健康保険を提供することにより、都市部に暮らす子どもたちの生活環境の改善に取り組み、また、全国的なラジオやテレビ、ソーシャルメディアを通じて啓発キャンペーンを実施し、主要なサービスへのアクセス改善と、国の福祉制度への加入を呼びかけました。行政やサービス提供を担う関係当局との協働や、定期的な家庭訪問やモニタリングにより、子どもたちとその家族が抱える課題やニーズを把握していくことで、今後子どもたちが政府の保健システムにより統合されていくことが期待されています。
今年のUHCデーのテーマは、「Health for All: Time for Action(すべての人に健康を:今こそ行動を起こすとき)」です。2023年9月には、国連でUHCハイレベル会合が開催されました。この場では、各国政府が政治宣言に合意し、UHC達成という目標に向けて不可欠な政治的意思を持って行動していくことを約束しました。
セーブ・ザ・チルドレンは、これからも脆弱な立場に置かれた人々が保健医療・栄養サービスを受けられるようにするために必要な支援を届けていくと同時に、各国政府が責任を持って保健システムを構築し、保健財政を確立していく重要性を呼びかけていきます。
(アドボカシー部 島村由香)
保健医療サービスの需要が増大していく一方で、現状に目を向けると、健康格差は拡大し、世界人口の約半数の人たちが最低限の必須保健サービスを受けることができず 、予防可能な理由で命を落としており、UHC達成への道のりはいまだ遠い状況です。
セーブ・ザ・チルドレンは、子どもを含むすべての地域社会の人たちが、将来にわたって質の高い保健医療・栄養サービスを利用できるようになるために、さまざまな国や地域で活動してきました。各国の活動の中で、セーブ・ザ・チルドレンが直面してきた課題、教訓、ベストプラクティスをまとめた「UHCストーリーズ(UHC Stories)」より、ここでは、エチオピア、モザンビーク、ナイジェリア、ルワンダの事例を紹介します。
エチオピア
エチオピアでは、遊牧民コミュニティにおけるアカウンタビリティ(説明責任)強化をサポートしてきました。エチオピアのソマリ地域の人口の85%は遊牧民ですが、人口の半分に相当する人たちが半径10キロメートル内で保健医療・栄養サービスを利用することが困難となっており、約10人に一人(101/1000人)の子どもが、5歳の誕生日を迎える前に命を落としています。セーブ・ザ・チルドレンは、ソマリ地域で女性、若者、教師、宗教・コミュニティ指導者から構成される、「社会的アカウンタビリティグループ」の設置をサポートしました。グループのメンバーがスコアカードを使い、保健センターの衛生状態や診察までの待ち時間、設備などの評価とモニタリングを行ったことで、一年後には、地域の保健センターのパフォーマンスが向上しました。また、保健サービス提供者自身がスコアカードを使用し、自らのパフォーマンスを評価する仕組みも出来上がりました。このように、エンパワーされたコミュニティが、より質の高い保健サービスとともに、関係当局に対してアカウンタビリティを求める声を上げていくための環境を整えることができました。
モザンビーク
モザンビークでは、栄養サービス改善のための、医療従事者の能力強化をサポートしています。ナンプラ州では、5歳未満の子どもの46.7%が栄養不良に苦しんでいます。同国の保健省や農業省が栄養不良を改善するために努めてきましたが、患者を診察できる医療従事者が不足していたり、保健専門家が栄養に関するトレーニングを受けていないなどの課題が残っていました。そこでセーブ・ザ・チルドレンは、2019年から2023年にかけて、他の開発パートナーや地域当局と共にこうした課題に取り組むための支援を行いました。
人材マッピングでは、現在栄養サービスを提供できる専門家の人数や、知識レベルなどを把握し、必須栄養サービスに関するトレーニングを提供することで、95人の新たな専門家の養成を行いました。また、消耗症の治療や、鉄分補給などを行うために、12の地域で18,000人にも及ぶ患者個人の管理カードなど作成することで、医療従事者が医療施設での患者の受診状況や経過をモニターできるようになり、また予想される患者数などを把握できるようになりました。このように、医療従事者の能力強化のアプローチにより、持続可能な栄養サービスの提供につながります。
ナイジェリア
ナイジェリアでは、保健ガバナンスの構築と健康保険の拡大を支援しています。2016年時点で、カドゥナ州の専門家の立ち合いのもとでの分娩数、5種混合ワクチンの接種率は他の地域と比べて特に低い状態でした。また、保健医療サービスを受けるための患者の自己負担額が高く、治療に必要な薬品も十分でない状態でした。セーブ・ザ・チルドレンは、こうした背景から、カドゥナ州において、すべての市民が保健サービスを利用する際の経済的障壁を取り除くことを目標とし、保健財政にかかるステークホルダーや、国内外の専門家、市民社会などを集め、保健戦略計画の策定を支援してきました。現状分析のための技術的支援を行ったり、包摂性の確保、戦略の実行可能性の検証を行ったりしました。保健支出に関するデータを生成し、すべてのステークホルダーが戦略の形成プロセスに参加できるようにすること、またその対話を通して財政余力や保健セクターへの投資を増大させていくというナイジェリアの取り組みは、他の地域でも応用できるものであり、UHC達成に向けた大きな一歩となります。
ルワンダ
ルワンダでは、都市部の難民の子どもたちに対する支援を行っています。セーブ・ザ・チルドレンは、2016年から、キレへ県にあるマハマ難民キャンプにおいて保健・栄養サービスの提供を行ってきました。一方、難民キャンプの外では、加入資格があるにもかかわらず、健康保険に加入できていない子どもたちが、保健医療サービスを受けられていないことが明らかになりました。セーブ・ザ・チルドレンは、地方政府およびパートナー機関と協力し、保健サービスや健康保険を提供することにより、都市部に暮らす子どもたちの生活環境の改善に取り組み、また、全国的なラジオやテレビ、ソーシャルメディアを通じて啓発キャンペーンを実施し、主要なサービスへのアクセス改善と、国の福祉制度への加入を呼びかけました。行政やサービス提供を担う関係当局との協働や、定期的な家庭訪問やモニタリングにより、子どもたちとその家族が抱える課題やニーズを把握していくことで、今後子どもたちが政府の保健システムにより統合されていくことが期待されています。
今年のUHCデーのテーマは、「Health for All: Time for Action(すべての人に健康を:今こそ行動を起こすとき)」です。2023年9月には、国連でUHCハイレベル会合が開催されました。この場では、各国政府が政治宣言に合意し、UHC達成という目標に向けて不可欠な政治的意思を持って行動していくことを約束しました。
セーブ・ザ・チルドレンは、これからも脆弱な立場に置かれた人々が保健医療・栄養サービスを受けられるようにするために必要な支援を届けていくと同時に、各国政府が責任を持って保健システムを構築し、保健財政を確立していく重要性を呼びかけていきます。
(アドボカシー部 島村由香)