アドボカシー(公開日:2018.08.17)
【世界人道デー】思いやりと協働−人間性を前進させるアイディア
8月19日世界人道デーに寄せて、セーブ・ザ・チルドレン緊急保健医療ユニット代表ウニ・クリシュナン医師からの報告です。
誰もが夢を持っています。物語に出てくるような途方もない夢、野心的な夢。2017年11月に、バングラデシュ・コックスバザールでトムに会ったとき、彼の夢はほとんど実現不可能かのように思われました。
彼は、たった3日間でクリニックを建てようとしていました。より正確には、トムはコックスバザールにある、世界最大、そしておそらく最も人口の密集するジャディムラ難民キャンプで、セーブ・ザ・チルドレンの緊急保健医療ユニット*の一員として働いていました。この難民キャンプには、ミャンマーから避難してきたロヒンギャの人々が暮らしています。
ロヒンギャ難民の家族は、栄養不良や脱水症状に陥り、また、ミャンマーで経験し目撃した暴力のため、多くの場合心的外傷(トラウマ)に苦しんでいました。さらに、こうした状況に追い打ちをかけるように、感染症も流行していました。この難民キャンプでは、世界で最も速いペースで難民危機が進行していました。
トムのような人道支援に携わる人は、一刻の猶予も許されない状況で活動を行っていました。
私は彼に正気かと尋ねました。3日でどうやってクリニックを建てるというのか、と。トムは、建設エンジニアでも、機動力がある軍隊の兵士でもありません。彼は、彼自身が称するところによれば、“ごく普通の、水と衛生のエンジニア”でした。
しかし、人道支援スタッフとして、彼はある3つのものを備えていました。それは、明確な使命、周囲を巻き込む楽観主義、そして深い思いやりの心―これらは、深刻な人道危機の最前線において不可能を可能にしていく重要な要素なのです。
なぜ人道支援に携わるのか
人道支援の仕事は、人々に慈愛の精神を広げていくことです。もしあなたが世界の惨状を目の当たりにしたとき、人道支援に携わらないという選択肢はあるのでしょうか。
現在、これまでに類を見ないほど多くの人々が避難を余儀なくされています。6,800万人以上が故郷を追われ、そのうち2,500万人が紛争や迫害を逃れるために国境を越えて難民となっています。これは、私の住むオーストラリアの人口よりも多い人数です。
2016年には5億6,000万人以上の生活が自然災害によって深刻な影響を受けました。そして、一晩に、およそ8億1,500万人が空腹にあえいでいるのです。世界中の飢餓に苦しむ人々を1ヶ国に集めた場合、中国、インドに次いで世界で3番目に人口の多い国となってしまうでしょう。
このような状況下−大勢の人々が苦しむなかで、トムとその同僚の人道支援スタッフたちは、人々の生死を分かつ最前線に身をおき活動をしているのです。このような状況においては食料や水、保健医療、精神的支援**、シェルターといった支援に加えて、不安や恐怖に対処するための支援も必要とされます。家や病院が爆撃され、学校が焼かれ、子どもは親を失う。嵐、洪水、病気−。不安や恐怖の種は尽きず、恐ろしいことにこれらはすべて現実です。
緊急保健医療ユニットから派遣されたトムのチームは、3日でクリニックを建設できるはずがないという予測を裏切り、次々と建設を行い、コックスバザールにクリニック8軒と基礎医療センター1軒を建てました。彼らのこうした仕事の背景にあったのは、緊急下の混乱の中にあっても、誰一人取り残さずに、緊急の保健医療支援を届けるという大いなる決意でした。
世界人道デー
2003年8月19日、イラク・バグダットの国連事務所が爆撃され、国連事務総長特別代表セルジオ・ビエイラ・デメロ氏とその同僚21人が亡くなりました。それから5年後の2008年に、人道支援活動で命を失った人々に敬意を表すとともに、一人でも多くの命を救うために困難な状況下で尽力する人道支援関係者に思いを寄せる日として、国連総会によって毎年8月19日が「世界人道デー」に定められました。
人道支援スタッフは、人々の生活が一変してしまったときに、思いやりを持って行動を起こす主体です。人道支援活動に従事するヒーローの多くが注目を浴びることのない、ごく普通の地域で活動する人たちです。国際社会からの支援が到着する前に、爆弾の飛び交う戦地や、地震で倒壊した建物の瓦礫から人々を救い出しているのです。
彼らは、嵐も戦争も感染症の流行も止めることはできませんが、人々に癒しを与えることができます。彼らはまた、これから起こる災害を防ぐことはできませんが、人々の苦しみを和らげることができるのです。
彼らの仕事は、私たちにある一つのシンプルな真実を思い出させてくれます―思いやりは人間性を表す指標である、という真実を。思いやりのない世界を想像してみてください。
協働
私たちが出来ることは、協働してくれる他者によって大きく広がります。嵐の猛威や大量虐殺の無慈悲な行いに立ち向かうことは、人道支援スタッフのみで行えることではありません。政府や報道機関、市民社会、国連組織といった多様なアクターが協働し合うことが必要なのです。
世界人道デーは、世界を、私たち皆が暮らしていくことのできる、そして子どもたちが健やかに育つことのできる、より暴力の少ないすばらしい場所へと変えていく力強い原動力が、協働と思いやりであることを、私たちに思い出させてくれます。
(セーブ・ザ・チルドレン緊急保健医療ユニット代表ウニ・クリシュナン)
*セーブ・ザ・チルドレンの緊急保健医療ユニットは、世界中の災害や紛争、病気が流行する地域で120万人以上に緊急の医療保健支援を届けています。
緊急保健医療ユニットについてはこちら(動画・英語)
**Iraq’s war-damaged children need specialist help to heal their trauma
https://www.theguardian.com/commentisfree/2018/aug/03/iraq-mosul-children-war-zone-trauma-mental-health-aid
■ウニ・クリシュナンによる報告
偶然のスーパーヒーロー(2019年10月4日)
インド南部ケララ州の洪水から学ぶ7つの教訓(2019年10月8日)
誰もが夢を持っています。物語に出てくるような途方もない夢、野心的な夢。2017年11月に、バングラデシュ・コックスバザールでトムに会ったとき、彼の夢はほとんど実現不可能かのように思われました。
彼は、たった3日間でクリニックを建てようとしていました。より正確には、トムはコックスバザールにある、世界最大、そしておそらく最も人口の密集するジャディムラ難民キャンプで、セーブ・ザ・チルドレンの緊急保健医療ユニット*の一員として働いていました。この難民キャンプには、ミャンマーから避難してきたロヒンギャの人々が暮らしています。
ロヒンギャ難民の家族は、栄養不良や脱水症状に陥り、また、ミャンマーで経験し目撃した暴力のため、多くの場合心的外傷(トラウマ)に苦しんでいました。さらに、こうした状況に追い打ちをかけるように、感染症も流行していました。この難民キャンプでは、世界で最も速いペースで難民危機が進行していました。
トムのような人道支援に携わる人は、一刻の猶予も許されない状況で活動を行っていました。
私は彼に正気かと尋ねました。3日でどうやってクリニックを建てるというのか、と。トムは、建設エンジニアでも、機動力がある軍隊の兵士でもありません。彼は、彼自身が称するところによれば、“ごく普通の、水と衛生のエンジニア”でした。
しかし、人道支援スタッフとして、彼はある3つのものを備えていました。それは、明確な使命、周囲を巻き込む楽観主義、そして深い思いやりの心―これらは、深刻な人道危機の最前線において不可能を可能にしていく重要な要素なのです。
なぜ人道支援に携わるのか
人道支援の仕事は、人々に慈愛の精神を広げていくことです。もしあなたが世界の惨状を目の当たりにしたとき、人道支援に携わらないという選択肢はあるのでしょうか。
現在、これまでに類を見ないほど多くの人々が避難を余儀なくされています。6,800万人以上が故郷を追われ、そのうち2,500万人が紛争や迫害を逃れるために国境を越えて難民となっています。これは、私の住むオーストラリアの人口よりも多い人数です。
2016年には5億6,000万人以上の生活が自然災害によって深刻な影響を受けました。そして、一晩に、およそ8億1,500万人が空腹にあえいでいるのです。世界中の飢餓に苦しむ人々を1ヶ国に集めた場合、中国、インドに次いで世界で3番目に人口の多い国となってしまうでしょう。
このような状況下−大勢の人々が苦しむなかで、トムとその同僚の人道支援スタッフたちは、人々の生死を分かつ最前線に身をおき活動をしているのです。このような状況においては食料や水、保健医療、精神的支援**、シェルターといった支援に加えて、不安や恐怖に対処するための支援も必要とされます。家や病院が爆撃され、学校が焼かれ、子どもは親を失う。嵐、洪水、病気−。不安や恐怖の種は尽きず、恐ろしいことにこれらはすべて現実です。
緊急保健医療ユニットから派遣されたトムのチームは、3日でクリニックを建設できるはずがないという予測を裏切り、次々と建設を行い、コックスバザールにクリニック8軒と基礎医療センター1軒を建てました。彼らのこうした仕事の背景にあったのは、緊急下の混乱の中にあっても、誰一人取り残さずに、緊急の保健医療支援を届けるという大いなる決意でした。
世界人道デー
2003年8月19日、イラク・バグダットの国連事務所が爆撃され、国連事務総長特別代表セルジオ・ビエイラ・デメロ氏とその同僚21人が亡くなりました。それから5年後の2008年に、人道支援活動で命を失った人々に敬意を表すとともに、一人でも多くの命を救うために困難な状況下で尽力する人道支援関係者に思いを寄せる日として、国連総会によって毎年8月19日が「世界人道デー」に定められました。
人道支援スタッフは、人々の生活が一変してしまったときに、思いやりを持って行動を起こす主体です。人道支援活動に従事するヒーローの多くが注目を浴びることのない、ごく普通の地域で活動する人たちです。国際社会からの支援が到着する前に、爆弾の飛び交う戦地や、地震で倒壊した建物の瓦礫から人々を救い出しているのです。
彼らは、嵐も戦争も感染症の流行も止めることはできませんが、人々に癒しを与えることができます。彼らはまた、これから起こる災害を防ぐことはできませんが、人々の苦しみを和らげることができるのです。
彼らの仕事は、私たちにある一つのシンプルな真実を思い出させてくれます―思いやりは人間性を表す指標である、という真実を。思いやりのない世界を想像してみてください。
協働
私たちが出来ることは、協働してくれる他者によって大きく広がります。嵐の猛威や大量虐殺の無慈悲な行いに立ち向かうことは、人道支援スタッフのみで行えることではありません。政府や報道機関、市民社会、国連組織といった多様なアクターが協働し合うことが必要なのです。
世界人道デーは、世界を、私たち皆が暮らしていくことのできる、そして子どもたちが健やかに育つことのできる、より暴力の少ないすばらしい場所へと変えていく力強い原動力が、協働と思いやりであることを、私たちに思い出させてくれます。
(セーブ・ザ・チルドレン緊急保健医療ユニット代表ウニ・クリシュナン)
*セーブ・ザ・チルドレンの緊急保健医療ユニットは、世界中の災害や紛争、病気が流行する地域で120万人以上に緊急の医療保健支援を届けています。
緊急保健医療ユニットについてはこちら(動画・英語)
**Iraq’s war-damaged children need specialist help to heal their trauma
https://www.theguardian.com/commentisfree/2018/aug/03/iraq-mosul-children-war-zone-trauma-mental-health-aid
■ウニ・クリシュナンによる報告
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インド南部ケララ州の洪水から学ぶ7つの教訓(2019年10月8日)