アドボカシー(公開日:2025.09.24)
【開催報告】「学校保護宣言」策定から10年、日本政府による賛同に向けて−教育を攻撃から守る世界のグッドプラクティスから考える−
9月9日は、国連が定める「教育を攻撃から守るための国際デー」です。
この日に合わせて、セーブ・ザ・チルドレンは教育協力ウィーク2025の一環として、オンラインイベント「『学校保護宣言』策定から10年、日本政府による賛同に向けて−教育を攻撃から守る世界のグッドプラクティスから考える−」を実施しました。
登壇者には、駐日ノルウェー大使館参事官のシグネ・エングリ氏、ケニア教育省局長室教育担当部長のサロメ・マイナ氏、赤十字国際委員会(ICRC)駐日代表部法律顧問の西山秀平氏、埼玉県立伊奈学園中学校英語科教諭の松倉紗野香氏、そして参議院議員の平木大作氏の5人を迎え、教育を攻撃から守るための世界の取り組みや「学校保護宣言」への賛同がもたらした変化、そして日本が同宣言に賛同する意義について多角的に議論しました。
写真:パネルディスカッションの様子
現在、世界では子どもの5人に1人、数字にして約4億7,300万人*1の子どもたちが紛争地で暮らしています。子どもたちが通う学校はひとたび軍事利用されてしまうと、学校自体が「軍事標的」としてみなされ、さらに攻撃にさらされやすくなってしまう現状があります。
2015年に策定された「学校保護宣言」は、教育を紛争の攻撃から守るための国際的な指針であり、紛争当事国を含む121ヶ国が賛同しています。「教育を攻撃から守るための国際デー」に合わせて開催されたこのイベントは、紛争下における教育の継続の重要性について再認識させる機会となりました。なお、日本は策定から10年経った2025年現在でもいまだに「学校保護宣言」に賛同しておらず、G7の中で賛同していない唯一の国となっています。
駐日ノルウェー大使館参事官のエングリ氏からは、ノルウェー政府による紛争下の教育を守るための原則が紹介されました。ノルウェーは、これまで、アルゼンチンとともに「学校保護宣言」の策定をリードし、賛同国のネットワーク拡大およびガイドラインの実践を推進するなど、同宣言に関する先導的な役割を果たしています。エングリ氏は、「紛争下において教育への安全なアクセスより大事なものはない」と主張し、教育機関が軍事利用されることで、子どもたちだけでなく周辺の地域にも長期的な影響を及ぼすと語りました。また、今紛争下にない国々でも紛争や危機の際に、学校や大学の軍事利用や軍事目標化を回避する措置を実施することで子どもを守ることが、「学校保護宣言」に参加することの意義であると訴えました。
ケニア教育省局長室教育担当部長のマイナ氏は、2015年に「学校保護宣言」に賛同したケニアが、いかにそのメリットを享受しているかを語りました。ケニアでは、同宣言を国の政策や法律に取り入れ制度化することで、包括的に紛争下の教育を守っているといいます。また、コミュニティや保護者への啓発活動、学校のカリキュラムに平和教育を盛り込むなど、地域に根差した改革も同時に行いながら、子どもたちの学びが止まらないよう尽力していることが共有されました。ケニアは、今年11月に開催される第5回「学校保護宣言」国際会合の主催国でもあり、マイナ氏は同会合への日本政府の参加に期待を示しました。
赤十字国際委員会(ICRC)駐日代表部の法律顧問である西山氏からは、「学校保護宣言」の法的な解釈について解説がありました。「学校保護宣言」および同宣言に付帯する行動指針となるガイドライン自体には法的拘束力はありませんが、学校が「民用物」としての性質を維持することで、保護の強化につながります。また、学校がより安全な場所として守られることで、生徒を巻き込んだ被害による批判や人道法違反のリスクを減少させることができ、人道と軍事の双方から望ましい慣行であると主張しました。
埼玉県立伊奈学園中学校英語科教諭の松倉氏からは、学校教育の現場で生徒たちが「学校保護宣言」について学び、また日本政府が同宣言に賛同していないと知った時の反応が紹介されました。「日本は唯一の被爆国として平和をリードしていくべきで、そのような立場にあると思っていたが、実際日本はまだ『学校保護宣言』に賛同していないと聞いて驚いた」といった意見が多かったことが共有されました。また、「ニュースで取り上げられていないことだからといって、争いが起きていないわけではない」、「報道されていない声なき声にも思いを馳せ、自分たちがこうした状況を社会に伝えていく必要がある」と、子どもたちが授業を通じて抱いた意見を話されました。
参議院議員の平木氏は、紛争下においても教育を途絶えさせないようにする意義について、2023年にECW(Education Cannot Wait: 教育を後回しにはできない基金)の事業地であるバングラデシュのコックスバザールにあるロヒンギャ難民キャンプを視察のために訪問した経験から、ロヒンギャの子どもたちが教育を通じてエンパワーされ、自ら子どもたちを取り巻く課題を解決しようと行動していたこと、そして子どもと大人が同じ目線で話ができていたことのエピソードを共有しました。日本政府が「学校保護宣言」にいまだに賛同していないことに対しては、国際法の基盤が大きく揺らいでいる今こそ、法的規範性を維持・強化していくことを国として優先していくべきとの立場を示しました。日本は戦後、国際社会において平和国家として評価されてきたが、「平和国家としての看板」を形骸化させないための行動が必要だとも訴えました。
さまざまな立場で活動されている5人のゲストの話は、紛争下の子どもたちの教育を守ることの重要性・緊急性を改めて認識させる内容となりました。今回のイベントを通じて、紛争下の教育を我々はいかに守れるのか、世界の好事例を参考に、日本として行動すべきことについて考えていくきっかけになればと思います。
引き続き、日本政府による「学校保護宣言」への賛同を求める署名やSNSでの拡散などを通じて、「学校保護宣言キャンペーン」へのご協力をよろしくお願いします。
日本政府による「学校保護宣言」への賛同を求める署名はこちらから:
https://www.change.org/SafeSchoolsJapanCampaign
*1 Peace Research Institute Oslo (PRIO). “Conflict Trends: A Global Overview,1946-2023.” (2024)
セーブ・ザ・チルドレン「学校保護宣言」ユース 篠田歩実




